昭和会計史としての「企業会計原則」

日本の会計制度近代化の立役者『企業会計原則』をはじめ財務会計について考察します。

会計学

対応・凝着アプロ-チと原価計算

アメリカ会計学会(AAA)の『会計理論および理論承認に関するステ-トメント』(AAA 1977、以下では『1977年報告書』と略します)は、「アメリカ会計文献のなかでおそらく最も強い影響力をもった著作」(染谷訳1980、20頁)と評するペイトン=リトルトンの『会社…

投下資本の回収計算としての減価償却

取得原価主義会計は、事業投資についての回収計算を意味します。すなわち、収益によって回収された原価が費用であり、収益との差額(回収余剰)が事業利益です。この点を計算例で説明してみましょう。 《例題》 仮に取得原価3,000万円の固定資産(設備)について…

収益認識基準

近代会計理論は、その関心を支出サイドの費用認識の精緻化に向けてきました。従来、収益認識に関する包括的な会計基準としては、「企業会計原則」に、「売上高は、実現主義の原則に従い、商品等の販売又は役務の給付によって実現したものに限る。」(損益計算…

支出計算の「修正」としての費用

支出計算の「修正」とは、具体的には「支出・未費用」、すなわち支出の「繰延処理」と「費用・未支出」、すなわち支出の「見越計上」を意味します。その適用類型として、以下では、(1)在庫(棚卸資産)、(2)減価償却(固定資産)および(3)引当金の3つのケースにつ…

発生主義会計とは何か

(1)原価実現アプローチによる「原価モデル」の説明 今日の会計は「原価モデル」と「公正価値モデル」とから成るハイブリッド会計です。その内、以下では「原価モデル」の説明をしていきましょう。 まず、発生主義会計について「取得原価主義」と「実現原則」…

学問としての会計学

私が学生の頃(45年前)の会計学は、今と異なる点が3つあります。まず、当時の商法(会社法が独立する前の商法)には、計算規定、つまり会計に関する規定が含まれていました。日本の商法のモデルとなったドイツ商法は今でも計算規定を含んでいます。当時の…

会計学名著紹介⑤:アメリカ会計学会(AAA)『会計理論及び理論承認』1977年

「会計学名著紹介」シリーズ、今回取り上げるのは、アメリカ会計学会(AAA)『会計理論及び理論承認』1977年です。 AAAの『基礎的会計理論』(ASOBAT)(AAA 1966 、飯野訳1969、会計学名著紹介①で取り上げています)公表の約10年後、「10年前に提出された基礎的会…

会計学名著紹介③:ペイトン=リトルトン『会社会計基準序説』1940年

「会計学名著紹介」シリーズ、今回のテーマは、ペイトン=リトルトン『会社会計基準序説』1940年です。アメリカ会計学会(AAA)の『会計理論および理論承認』(AAA 1977,染谷訳1980、会計学名著紹介⑤で取り上げています)は,「アメリカ会計文献のなかでおそら…

会計学名著紹介②:シュマーレンバッハ『十二版・動的貸借対照表論』1956年

「会計学名著紹介」シリーズ、今回のテーマは、シュマーレンバッハ『十二版・動的貸借対照表論』です。かつて,発生主義会計については,ドイツでは,財産法による静態論との比較で,損益法による動態論として説明されていました。こうしたドイツ的説明は現…

会計学名著紹介①:アメリカ会計学会(AAA)『基礎的会計理論』(“ASOBAT”)1966年

はじめに 1960年代までの米独の会計理論は,制度に関するテーマ中心に展開されていました。したがって,会計理論の学習は財務会計制度の理解を深めてくれるものでした。そして,60年代までの米独の会計理論は,70年代に大学で,会計研究会に所属して財務会計…

1970年代によく読まれた簿記・会計の教科書

1970年代によく読まれた簿記・会計の教科書は、以下の通りです。新井清光『財務会計論[増補版]』中央経済社。 飯野利夫『財務会計論』同文館出版。 井上達雄『新財務会計論』中央経済社。 植野郁太『財務会計論』国元書房。 武田隆二『最新財務諸表論』中…

戦時下の会計学者南方視察団(その3)

まず、本稿の(その1)で紹介した全体のスケジュールのうち、スマトラ島でのスケジュールを以下に再掲する。 8月24日 スマトラ島メダン(インドネシア、以下同様) 8月25日 パンカランブランダン油田、バンカランスス油田 8月26日 タバコ工場視察 8月27日 …

戦時下の会計学者南方視察団(その2)

南方視察団一行は、1942年7月25日午前6時50分頃、羽田空港を飛び立ち、まず、当時、日本最大の民間飛行場であった福岡県の雁の巣飛行場に着陸した。午前11時に離陸して、現在の中国上海大場飛行場に2時45分に到着。午後3字15分に再び離陸、午後6時半に台北飛…

戦時下の会計学者南方視察団(その1)

1942年7月下旬から10月の約3か月間、当時、日本の占領下にあった南方に日本と同様の統一原価計算制度を確立するために、現地において原価計算に関する指導と業種別の原価計算準則の作成が陸軍省より4人の会計学者に委嘱された。委嘱されたのは、長谷川安兵衛…

日本型会計制度の歴史(「企業会計原則」):「企業会計原則」研究の参考文献/資料

「企業会計原則」は、日本が主権を失っていた戦後占領期という特殊な状況で生まれた。幸いなことに「企業会計原則」の成立については、「企業会計原則」の成立プロセスに関わる黒澤清(当時横浜経済専門学校、後の横浜国立大学教授)の個人所蔵の内部資料を…

ドイツ会計制度③

今回は、2009年会計法現代化法(BilMoG)と2015年会計指令転換法における計算規定を概観しましょう。 1 2009年会計法現代化法(BilMoG) BilMoGの政府草案の理由書によれば、2009年5月29日に発効したBilMoGによって「(国際財務報告基準(IFRSs)との関係において……

ドイツ会計制度②

今回は、1998年資本調達容易化法から2004年会計改革法における計算規定を概観しましょう。 1 1998年資本調達容易化法(KapAEG) 1993年9月に,ドイツを代表する企業ダイムラーベンツの株式が、アメリカ預託証券によって店頭取引として初めてニューヨーク証券…

ドイツ会計制度①

今回は、ドイツ会計制度①として、1861年の普通ドイツ商法典、1937年株式法、1965年株式法および1985年会計指令法における計算規定を概観してみましょう。 1 1861年普通ドイツ商法典(Allgemeines Deutsches Handelsgesetzbuch von 1861:ADHGB) 1861年普通ド…

日本型会計制度の歴史(「企業会計原則」)「はじめに」

「企業会計原則」は、1949年(昭和24年)7月に公表され、日本の会計制度の近代化の中心となった(以下では昭和24年版「企業会計原則」と呼ぶ)。個人的なことであるが、筆者が財務会計に接したのは1976年(昭和51年)であった。筆者が学生時代の財務会計の教科書に…

簿記のメカニズムから見た貸借対照表と損益計算書(その2)

(a)決算整理前残高試算表 「簿記のメカニズムから見た貸借対照表と損益計算書(その1)」の説明では,決算整理前残高試算表から直接,貸借対照表,損益計算書を導き出しました。つまり、当期の収入・支出が収益・費用とイコールのケースです。 (b)発生主義…

簿記のメカニズムから見た貸借対照表と損益計算書(その1)

簿記は、仕分けから始まる簿記一巡の手続きを経て貸借対照表と損益計算書の作成に至るメカニズムです。簿記の学習では、仕訳のルールをはじめ、とにかくルールを覚えて解答を得ることが第一となります。その結果、簿記手続の意味は余り意識されないと思いま…