昭和会計史としての「企業会計原則」

日本の会計制度近代化の立役者『企業会計原則』をはじめ財務会計について考察します。

簿記のメカニズムから見た貸借対照表と損益計算書(その2)

(a)決算整理前残高試算表
 「簿記のメカニズムから見た貸借対照表損益計算書(その1)」の説明では,決算整理前残高試算表から直接,貸借対照表損益計算書を導き出しました。つまり、当期の収入・支出が収益・費用とイコールのケースです。

(b)発生主義会計と決算整理
 発生主義会計では、「 収益」と「費用」の差額として計算されます。しかし、複式簿記における決算整理前残高試算表までの記録は、単なる「収入」と「支出」の記録です。決算時の決算整理 によって、収入・支出計算が「修正」され、発生主義による損益が算定されるのです。
 「修正」の具体的問題は、特に支出の回収が複数の期間にまたがる場合、例えば減価償却です。実際の企業では、支出の回収が複数の期間にまたがる項目があるため、収入・支出がそのまま収益・費用とイコールとなることはありません。
 そのため、一定期間に区切って損益計算を行う必要があり、残高試算表から貸借対照表損益計算書を導出するには決算時の処理として「④決算整理」という手続を必要とします。

(c)損益作用的収入現金主義会計から発生主義会計へ

 決算整理によって、現金主義による収入・支出計算が、発生主義による収益・費用計算に変換されます。ここでは,決算整理の代表例として 減価償却について説明しましょう。

(d)減価償却
 「簿記のメカニズムから見た貸借対照表損益計算書(その1)」の設例の事務所用家屋300,000円を10年にわたって利用できるとします。そして,残存価額をゼロとし、定額法で減価償却するとします。減価償却について以下のように仕訳し、元帳に転記したものを試算表に集計するとしましょう。
(借方)減価償却費 30,000円   (貸方)事務所用家屋  30,000円

* ここでは、計算例の単純化のために、減価償却の金額を事務所用家屋勘定の貸方に記入して直接減額しています。有形固定資産の減価償却については、通常、「減価償却累計額」勘定の貸方に記入されます。

(e)(決算整理後)合計残高試算表

 「事務所用家屋」勘定の貸方に30,000円記入されたので、残高は、270,000円になっています。一方、「減価償却費」勘定の借方に30,000円が記入されます。この残高試算表を見ると、文字どおり「事務所用家屋」が30,000円「減価」し、それが費用計上「償却」されていることが分かります。
 借方残高の項目を借方に、貸方残高の項目を貸方にして、一表にまとめたものが以下の(決算整理後)残高試算表です。

 残高試算表を資産・負債・資本と費用・収益とに切り離すと,前者が貸借対照表,後者が損益計算書となります。

 貸借対照表損益計算書の借方合計と貸方合計の差額が合計金額の小さい方に記入され、当期純利益として表示されています。