昭和会計史としての「企業会計原則」

日本の会計制度近代化の立役者『企業会計原則』をはじめ財務会計について考察します。

支出計算の「修正」としての費用

 支出計算の「修正」とは、具体的には「支出・未費用」、すなわち支出の「繰延処理」と「費用・未支出」、すなわち支出の「見越計上」を意味します。その適用類型として、以下では、(1)在庫(棚卸資産)、(2)減価償却(固定資産)および(3)引当金の3つのケースについて見ていくことにしましょう。

(1)在庫(棚卸資産)
 通常,ビジネスには在庫が存在し,その在庫についての支出計算の調整が必要となります。すなわち,商品販売に関する利益計算でのポイントは,在庫商品の扱いです。
 さて,商品販売による利益を求めるにあたって,基本的には,売上収入から仕入支出を引けばよいことになります。しかし実際には,当期に販売された商品が当期に仕入れられたものとは限りません。むしろ通常の商品の流れを想定すれば,期首時点の在庫商品から販売されていくと考えられます。また当期に仕入れられた商品も期末時点までにすべて売れてしまうのではなく,一定の在庫商品が存在すると考えられます。
 商品の在庫が生じると,単純な収入・支出計算によって利益を計算することが出来なくなります。なぜなら,期首の在庫(期首商品棚卸高)を構成する商品が仕入れられたのは,前期以前であり,期末の在庫(期末商品棚卸高)が売れるのは次期以降となるからです。

《例題1》
 20×1年4月1日から20×2年3月31日までを計算期間として話を進めることにしましょう。期間の始めを「期首」と呼び,期間の終わりを「期末」と呼びますが,4月1日から3月31日までの一年間について利益を計算するというのは,あくまでも計算上の都合にすぎません。したがって,期首であろうと期末であろうと小売の活動は継続されます。当然,4月1日にも,店内ないし倉庫に在庫商品が存在します。

それは20×1年3月31日迄に仕入れられ,未だ売れていない商品で,当期に引き継がれたものです。これを①期首商品棚卸高といいます。4月1日以降も通常の仕入,販売は日々行われていきます。20×1年4月1日から20×2年3月31日に仕入れられた商品の総額を②当期仕入高といいます。そして,20×2年3月31日時点の在庫を③期末商品棚卸高と呼びます。
 一方、販売されたものについては売値でその都度記録され、20×1年4月1日から20×2年3月31日に販売された商品の総額を⑤当期売上高といいます。これらのことを反映した図表が、下図です。

 ①期首商品棚卸高が45万円、②当期商品仕入高が85万円、そして③期末商品棚卸高が43万円とすると、⑤当期売上高100万円に対応した④商品売上原価は87万円(45万円+85万円-43万円)となります。これは、当期に売れた分を仕入値で表したものであり、⑤当期売上高100万円からマイナスされ、その結果、⑥売上総利益は13万円となります。
 このように、棚卸資産の場合は、保有する商品の「売却」によって、取得原価が売上原価(費用)と期末商品有高(資産)とに配分されます。未売却分(資産)については、次期以降売却されれば費用になります。したがって、将来の費用であり、費用性資産と呼ばれます。

(2)減価償却(固定資産)
 継続企業における、期間損益計算を行うための支出の修正の2番目は、減価償却です。ここでは設備の例でもって説明しましょう。
《例題2》
 事業に必要な設備を2,000,000円で購入し,3年間にわたって利用できるとします。そして,3年たったところで中古品取扱店に200,000円で引き取ってもらうとしましょう。この場合,当設備の1ヶ年間の利用に要するコストは,(2,000,000円-200,000円)÷3=600,000円となります。

 この計算手続きを収入・支出計算と収益・費用計算との関わりで見るならば,1年目(t0~t1期)の設備購入のための支出を全額その期の費用としてしまうことは合理的ではありません。なぜなら,その場合,1年目(t0~t1期)は設備の利用に対する支出が突出するのに対して,2年目(t1~t2期)以降も設備を同じように利用するにも関わらず,全く支出が生じないからです。
 したがって,減価償却によって1ヶ年目(t0~t1期)の支出2,000,000円を各期間に配分することによって損益計算を適正化するのです。
 減価償却計算は、繰延法の典型であり、取得原価が「価値の費消」によって減価償却費(費用)と設備(資産)とに配分されます。この場合も、設備(資産)は、将来の費用なので費用性資産です。実際の計算については定額法や定率法や生産高比例法といった配分方法が適用されます。

(3)引当金
 支出計算の「修正」の3番目のケースは、「費用・未支出」すなわち、見越計上法であり、具体的には、(3)引当金がそれに該当します。

《例題3》
 全体期間(ここでは1~8期)に渡って400億円の全体損益を稼得する企業を想定します。単純化のために、100億円の収支ベースで算定された期間損益が時間の経過とともに不変であると仮定します。1期の当初期間に1度限りの行為、例えば原子力発電所の操業によって、原子力発電所の廃棄物の処理のために400億円の法的または実際の債務が発生し、それが8期の最終期間に収支作用的支出につながるものとしましょう。下図は、期間の損失相殺の前後の利益の展開を表しています。
収支計算の例示(単位:億円)
 期間  1 2 3 4 5 6 7 8
  利益  100 100 100 100 100 100 100 100
 損失相殺 -400
相殺後利益 100 100 100 100 100 100 100 -300

引当金設定がなければ、最終8期の400億円の支出は、300億円の損失につながります。こうした事態に対して引当金の継続的な設定を通じての債務金額の集積性は、下図のように債務の発生と履行の間の期間に事業支出を一定額(50憶円)ずつ配分することになります。その際、引当金が利益平準化効果(相殺後利益50憶円)をもたらします。
引当金の例示(単位:億円)
期間  1 2 3 4 5 6 7 8
 利益  100 100 100 100 100 100 100 100
損失相殺 -50 -50 -50 -50 -50 -50 -50 -50
相殺後利益 50 50 50 50 50 50 50  50