昭和会計史としての「企業会計原則」

日本の会計制度近代化の立役者『企業会計原則』をはじめ財務会計について考察します。

会計学名著紹介②:シュマーレンバッハ『十二版・動的貸借対照表論』1956年

 「会計学名著紹介」シリーズ、今回のテーマは、シュマーレンバッハ『十二版・動的貸借対照表論』です。かつて,発生主義会計については,ドイツでは,財産法による静態論との比較で,損益法による動態論として説明されていました。こうしたドイツ的説明は現在の日本の教科書では殆ど姿を消しています。
 ドイツ会計理論を代表する著作が,シュマーレンバッハ(Schmalenbach, Eugen)の『動的貸借対照表』("Dynamische Bilanz") (Schmalenbach 1956,土岐訳1959)です。そこでは,収入・支出との関係で収益・費用が説明されました。下掲の図表がシュマーレンバッハの動的貸借対照表シェーマです(土岐訳1959,52頁)。動的貸借対照表論は,その後,ワルプ(Walb)やコジオール(Kosiol)等によって精緻化されていきました。そして,その一部は,日本の経営学会計学に大きな影響を与え,日本語訳もされました。

 ドイツ静態論では,積極的財産(財産)と消極的財産(債務)との差額である正味財産を示す,財産目録の要約表として貸借対照表が説明されていました。そして積極的財産は,売却価値,すなわち時価で評価されていました。
 ところが,工場,生産設備といった固定資産の会計処理法として原価評価に基づく減価償却が確立することによって,貸借対照表は未償却残高,すなわち投資の未回収額の一覧表となりました。これによって,財産目録作成の前提である時価評価と会計処理とを切り離すことが可能になったのです。
 ドイツ動態論も「支出・未費用」としての資産の説明がメインでした。シュマーレンバッハは,上掲の項目のうち,「支出・未費用」について,「この場合(支出・未費用;筆者注)が近代の経済において大きな役目をなすということはその資本の充実に基づくものである。」(土岐訳1959,47頁)とした上で,これに属する場合として次の四つを挙げ,詳細に説明しています(土岐訳1959,48ー49頁)。
α.工場や事務所建物,機械,暖房設備等といった磨耗(Verschleiß)その他の減価が生じる購入設備。
β.後の期間に収益に変ずると期待される試験研究費,準備費。
γ.未消費の原材料および補助材料。
δ.前払保険料,前払利息,前払家賃および仕入先への前払金といった,費用に対する前払い。

 これらは,いずれも支出について,実現収益に対応する当期の費用と次期以降の費用(資産)とに配分され,次期以降の費用として貸借対照表に計上されるものです。
 因みに「支出・未収入」と「収入・未支出」とは,中立的収支と呼ばれ,損益計算には関係しません。例えば,借入金に関して生じる収入は,損益計算には関係しない「中立的収入」です。つまり,一定期間後に,返済のための支出によって解消するため,プラス・マイナス・ゼロとして損益計算に影響しないので「中立的」と呼びます。これに対して,収益に関して生じる収入は,損益計算に関係する「損益作用的収入」です。
 支出についても,例えば貸付金に関して生じる支出は,損益計算には関係しない「中立的支出」です。つまり,一定期間後に,回収のための収入によって解消するため,プラス・マイナス・ゼロとして損益計算に影響しない支出です。これに対して,費用に関して生じる支出は,損益計算に関係する「損益作用的支出」です。したがって,収入支出のうち,損益計算に影響しない「中立的」収入・支出を除いた「損益作用的」収入・支出によって損益が計算されます。
このように、動的貸借対照表論とは、収入・支出との関係で期間損益計算を精緻に説明した理論です。

文献
Schmalenbach, Eugen 1956 Dynamische Bilanz,12. Aufl., Köln : Westdeutscher Verlag(翻訳;土岐政蔵訳1959『十二版・動的貸借対照表論』森山書店).