昭和会計史としての「企業会計原則」

日本の会計制度近代化の立役者『企業会計原則』をはじめ財務会計について考察します。

日本型会計制度の歴史(商法・会社法)②: 昭和37年商法改正

日本型会計制度の歴史(商法・会社法)第2回 昭和37年商法改正

 

 今回は,昭和37年商法改正を取り上げます。なお、商法の条文については、片仮名を平仮名に換え、漢字の送り仮名を補足し、句読点を付す等により、読みやすく変換しています。

昭和37年商法改正

 商法改正に当たっては、「企業会計原則」が尊重されなければならないといっただけでは不十分という理解から、商法改正についての具体的勧告として1951年(昭和26年)に企業会計基準審議会によって「商法と企業会計原則との調整に関する意見書」(以下では「商法調整意見書」と略称します) が公表されました。

 「商法調整意見書」の勧告は、第1から第14までありますが、そのうちの「第12 資本準備金」は、25年改正による法定準備金についての資本取引と損益取引分離に対する追加要請だとし、残りの13項目については、37年改正と49年改正によってほぼ実現されたとされます(新井ほか1978,23頁)。

 上述のように1957年(昭和32年)以降、正規の財務諸表監査が実施されることにより、会計実践とのへだたりが、いっそう強く認識されるようになったため、法制審議会商法部会によって、1958年(昭和33年)2月から、かねてからの懸案である計算規定の根本改正の作業に着手されました(江村1982、21頁)。同年に「改正の問題点」が公表され、さらに、1960年(昭和35年)に法務省民事局試案が公表されました。1962年(昭和37年)2月2日に「商法の一部を改正する法律案要綱」が法制審議会総会で決定され、1962年(昭和37)年4月20日に「商法の一部を改正する法律」として公布されました。そして、翌1963年(昭和38年)7月1日より施行されました。

 以下では、37年改正について、会計に関連した主要な改正・新設条文を概観してみましょう。

a.資産別評価規定の新設

 昭和13年商法では、財産目録および貸借対照表の作成規定が第33条にありました。そして財産目録評価規定は第34条に「(前段略)営業用の固定財産に付いて前項の規定に拘わらず其の取得価額又は製作価額より相当の減損額を控除したる価額を附すること得。」という規定があり、また、会社の計算規定においては、第285条に以下の規定があったに過ぎませんでした。

「財産目録に記載する営業用の固定財産に付いては其の取得価額又は製作価額を超ゆる

 価額、取引所の相場ある有価証券に付いてはその決算期前一月の平均価額を超ゆる価

 額を附することを得ず。」

 

 昭和37年改正では、以下のような資産別の評価規定が新設されました。

流動資産

流動資産に付いては、其の取得価額又は制作価額を附することを要す。但し時価が取

 得価額又は制作価額より著しく低きときは其の価格が取得価額又は制作価額まで回復

 すると認めらるる場合を除くのほか時価を附する事を要す。

 前項の規定は、時価が取得価額又は制作価額より低きときは時価を附するものとする

 ことを妨げず。」(285条ノ2)

②固定資産

「固定資産に付いては、其の取得価額又は制作価額を附し、毎決算期に相当の償却を為

 すことを要す。

  固定資産に付き、予測すること能わざる減損が生じたるときは相当の減額を為すこ

 とを要す。」(285条ノ3)

③金銭債権

「金銭債権に付いては、其の債権金額を附することを要す。但し債権金額より低き代金

 にて買入れたるとき其の他相当の理由あるときは相当の減額を為すことを得。

 金銭債権に付き取立不能の虞あるときは取立つること能わざる見込額を控除すること

 を要す。」(285条ノ4)

社債

社債に付いては、其の取得価額を附することを要す。但し其の取得価額が社債の金額

 と異なるときは相当の増額又は減額を為すことを得。

  第285条ノ2第1項但し書及び第2項の規定は取引所の相場ある社債に、前条第2項の

 規定は取引所の相場なき社債に之を準用す。

  前2項の規定は国債、地方債其の他の債権に之を準用す。」(285条ノ5)

⑤株式その他の出資

「株式に付いては、其の取得価額を附することを要す。

  第285条ノ2第1項但し書及び第2項の規定は取引所の相場ある株式に之を準用す。

 取引所の相場なき株式に付いては、其の発行会社の資産状態が著しく悪化したるとき

 は相当の減額を為すことを要す。

  第1項及び前項の規定は有限会社の社員の持分其の他出資に因る持分に之を準用

 す。」(285条ノ6)

⑥暖簾

「暖簾は有償にて譲受け又は合併に因り取得したる場合に限り貸借対照表の資産の部に

 計上することを得。此の場合に於いては其の取得価額を附し、其の取得の後5年内に

 毎決算期に於いて均等額以上の償却を為すことを要す。」(285条ノ7)

 

b.繰延資産の範囲拡大

  当時、商法上明文をもって繰延資産として認められていたのは、上述のように、創業費、新株発行費、社債差額及び建設利息でした。それらに加えて、以下の項目が繰延資産として認められました。

①開業準備費用

「開業準備の為に支出したる金額は、之を貸借対照表の資産の部に計上することを得。

 此の場合に於いては開業の後5年内に毎決算期に於いて均等額以上の償却を為すこと

 を要す。」(286条ノ2)

②試験研究費・開発費

「左の目的の為に特別に支出したる金額は、之を貸借対照表の資産の部に計上すること

 を得。此の場合に於いては其の支出の後5年内に毎決算期に於いて均等額以上の償却

 を為すことを要す。

 一 新製品又は新技術の研究

 二 新技術又は新経営組織の採用

 三 資源の開発

 四 市場の開拓」(286条ノ3)

社債発行費用

社債を発行したるときは其の発行の為に必要なる費用の額は、之を貸借対照表の資産

 の部に計上することを得。此の場合に於いては社債発行の後3年内に、若し3年内に

 社債償還の期限が到来するときは其の期限内に毎決算期に於いて均等額以上の償却を

 為すことを要す。」(286条ノ5)

 

c.引当金規定の新設

 引当金の計上を容認する条文の新設が必要とされることになったのは、単に、当時の健全な会計実務を法令にとり入れるべきであるという程度の問題意識によるものではありませんでした。当条文が存在しないならば、引当金の計上が違法となったからです。すなわち、37年改正により、知られたるすべての債務は、その債務金額をもって貸借対照表に計上しなければならないとされたため、債務の性格をもたない引当金の計上は禁止されることになったからでした(江村1982、40頁)。そこで以下の規定が新設されました。

「特定の支出又は損失に備ふる為に引当金貸借対照表の負債の部に計上するときは其

 の目的を貸借対照表に於いて明らかにすることを要す。

  前項の引当金を其の目的外に使用するときは其の理由を損益計算書に記載すること

 を要す。」(287条ノ2)

 

 このように、37年改正の特色は、「企業会計原則」の採っている原価主義を基本的な評価基準として採用し、いわゆる損益法による企業会計フレームワークを決算貸借対照表にかかげられる各種項目に適用しようとしたことに求められます(江村1982、23頁)。

  上記規定の改正・新設のほか、利益準備金の要積立額、資本準備金の積立、配当限度額、付属明細書に関する規定が改正されました。そして、1963年(昭和38年)には「株式会社の貸借対照表及び損益計算書に関する規則」(法務省令)が制定されました。これによって「昭和13年以来,25年ぶりに計算書類の方式を定めるという公約がようやく実現しました(鈴木・竹内1977,367頁)。

 

文献

新井清光ほか1978「〈座談会〉企業会計制度の基盤」『企業会計』第30巻第12号。

江村稔1982「企業会計法の基本問題」(江村稔編『企業会計法』中央経済社所収)。

鈴木竹雄・竹内昭夫1977『商法とともに歩む』商事法務研究会。