昭和会計史としての「企業会計原則」

日本の会計制度近代化の立役者『企業会計原則』をはじめ財務会計について考察します。

日本型会計制度の歴史(商法・会社法)③: 昭和49年商法改正

日本型会計制度の歴史(商法・会社法)第3回 昭和49年商法改正

 

 今回は,昭和49年商法改正を取り上げます。

昭和49年商法改正

 昭和49年改正商法については、1967年(昭和42年)に「監査制度に関する問題点」が公表され、さらに、1968年(昭和43年)に法務省民事局参事官室試案が公表されました。1970年(昭和45年)3月30日に「商法の一部を改正する法律案要綱」が法制審議会で決定され、そして、1974年(昭和49)年4月2日に「商法の一部を改正する法律」として公布され、同年10月1日より施行されました。

 昭和49年改正は、「公正なる会計慣行の斟酌」規定の新設や財産目録の作成義務の廃止等,商法会計上の長年の課題が達成された改正でした。しかし、49年改正の最大のポイントは、会計監査人監査導入でした。すなわち、粉飾決算の問題が証券取引法の適用を受ける公開会社で表面化し、同法による公認会計士の監査を強化して有効にするため、決算確定前にその監査を行って、株主総会にその意見を報告させる必要があり、その手続を定めるため商法上の制度として会計監査人制度が新設されました(大森・矢沢1971、36頁)。「商法特例法」が制定され、以下の事項が新設されました。

 1 大会社に対する会計監査人監査の強制(2条)

 2 会計監査人に関する諸規定の新設(3条ほか)

 

 その他、昭和49年改正によって採用された計算規定関係の方策は、第1には、商法総則における条文の改正による商業帳簿の完備であり、そして、第2には、商法による会計規制と証券取引法上の会計基準(「企業会計原則」)とを合致させることによって、内容の一致ないし調和をはかることでした(江村1982、37頁)。昭和49年改正では、会計に関連して以下のような事項が改正・新設されました。

① 公正なる会計慣行の斟酌規定の新設(32条2項)

② 商業帳簿に関する評価規定等の改正(32条~34条)

③ 開業財産目録及び決算財産目録の作成義務の廃止(281条1項)

④ 子会社株式の評価規定の改正(285条ノ6,2項)

⑤ 附属明細書の監査役監査規定の新設(281条ノ4)

⑥ 監査役監査の範囲を業務監査にも拡大(274条)

⑦ 中間配当制度の新設(293条ノ5)

 

 まず①については、1948年(昭和23年)12月2日の「調査会」会合に提出された「会計原則」の原案のうち,一般原則の1つとして次のものが挙げられていました(企業会計制度対策調査会1949、44頁)。

「二 企業会計は正規の会計原則に従って処理されなければならない。」

 しかし、これについては,「すでに自明の公理みたいなものであるから,むしろこれは削除した方が適当であるとの皆さんの意見によって」(企業会計制度対策調査会1949、48頁)削除されました。それが、49年改正の折に,第32条第2項の規定として蘇りました。

 ②については、財産評価について「時価以下主義」が改められ、「企業会計原則」の原価主義の立場が採用されました(大森・矢沢1971、41頁)。

 ③については、商法総則の計算書類の体系から財産目録が除かれたので、その代わりに、会計帳簿の記載事項に修正が加えられました。そのほか、従来、株主総会終了後に作成されていた計算書類の附属明細書が定時総会前に作成され、監査役・会計監査人の監査を受けた上で、株主・債権者に公示されることになりました(大森・矢沢1971、39頁)。

 ④については、子会社の株式の評価について、長期に保有されることが明白な株式に低価基準を採用することは、企業の財政状態・経営成績の適正な表示を妨げるとして、「企業会計原則」ないし法人税法第30条(同施行令第34条第1項第2号)の規定にあわせて低価基準によらないものとされました。

 ⑤については、下記のように監査役が業務監査をも行うことに伴い、取締役に対する報告徴収権及び、業務状況調査権を拡大する一環として規定されました。

 ⑥については、昭和25年改正の折に監査役監査の範囲を会計監査に限定する規定(第274条)により、一旦外されていた業務監査が、また元に戻されました。

 ⑦については、証券取引法会計との調整上、当初から障碍となっていた半年決算を一年決算に移行させる前提整備として、中間配当が認められました。その際、イギリス会社法やドイツ株式法、満鉄の例などの規定が参照されました(大森・矢沢1971、40頁)。

 その他、負債の部において「特定引当金の部」の区分記載を要求すること、損益計算書において営業損益計算・経常損益計算・純損益計算の区分のほか、未処分損益の区分を設けて、そこに従来「特別損益の部」に計上されていた特定目的積立金の目的に従った取崩高、特定引当金の繰入、取崩高および中間配当額などを記載させる等の改正が行われました(大森・矢沢1971、40頁)。

 因みに、「商法調整意見書」の勧告のうち、37年改正と49年改正で積み残された「第7 計算書類の確定」については、1981年(昭和56年)の商法特例法の改正によって、また「第11自己株式」については、2001年(平成13年)の商法改正によって実現しました。「第13 臨時巨額の損失」については商法に反映されませんでしたが、1954年(昭和29年)に公表された「企業会計原則注解」において規定され、その後1963年(昭和38年)の同「注解」改正の折に「特に法令をもって認められた場合」という文言を入れることによって調整されました(新井ほか1978,35頁)。

 昭和37年及び49年改正は公認会計士監査受容のためのものでもありました。上述の矢澤は後に次のように総括しています。

企業会計原則と正面からかかわる商法の改正は、二回、今おっしゃるとおり昭和37年と昭和49年とありますけれども、二つともいわば会計原則およびそれを基準とする監査制度を実現するために行われたものであることを忘れないでいただきたいと思います。それも大筋で企業会計審議会の意見をいれたものです。

 37年改正は何のために行われたかというと、証取法上の公認会計士の強制監査が全面的に昭和32年から施行されることになり、その会計基準企業会計原則とまるで違った商法であっては困るというので、ピッタリ一致するところまではいきませんでしたけども、ほとんど全部商法を会計原則に合わせたといってよいでしょう。(傍点引用者)」(新井ほか1978、24頁) 

 

文献

新井清光ほか1978「〈座談会〉企業会計制度の基盤」『企業会計』第30巻第12号。

江村稔1982「企業会計法の基本問題」(江村稔編『企業会計法』中央経済社所収)。

大森忠夫・矢沢惇1971『注釈会社法(1)』有斐閣

企業会計制度対策調査会1949「企業会計原則設定に関する企業会計制度対策調査会速記

 録(2)」『会計』第56巻第5号。