昭和会計史としての「企業会計原則」

日本の会計制度近代化の立役者『企業会計原則』をはじめ財務会計について考察します。

会計学名著紹介④:「企業会計原則」1949年 

 「会計学名著紹介」シリーズ、今回のテーマは、正確には、名著ではなく、「企業会計原則」です。「企業会計原則」は、日本の企業会計の近代化に貢献しただけでなく、会計教育にも多大な影響を与えてきました。以前の財務会計の教科書は、その多くを「企業会計原則」の解説に充て、付録としてその全文を掲載していました。そのため、「企業会計原則」自体、身近なものでした。また、大学をはじめとする教育機関はもちろん、各種資格試験においても大きな役割を果たしてきました。さらに、日本の会計制度に大きな影響を与えました。以下では、「企業会計原則」と商法改正についてお話します。

 戦前は,証券取引法(現在の金融商品取引法)は存在しませんでした。商法(現在の会社法)には計算規定として会計に関する規定が存在しましたが,大枠に関する規定しかありませんでした。税法については,申告納税制度ではなかったので,納税者による精密な計算は行われていませんでした。
 戦後,新設された証券取引法に基づく会計を整備する目的で「企業会計原則」が公表されます。それは,同時に,商法の計算規定と法人税法による計算の近代化に貢献していきます。その経緯を以下で見ていくことにしましょう。
 1949年(昭和24年)7月9日,「企業会計制度対策調査会」(以下では「調査会」と略称します)は,黒澤清 第1部会長の草案を中心に進められてきた研究討議の結果を「企業会計原則」と「財務諸表準則」とに分けて,中間報告として発表しました。「企業会計原則」は,その後,数次の修正を経ていますが,企業会計の礎として,今日なお会計諸則集等に収められています。
 1950年(昭和25年)には,「財務諸表準則」を基礎に「企業会計原則」の一般原則の一部を取り込んで,証券取引委員会規則第18号として「財務諸表規則」が制定されました。
 「企業会計原則」及び「財務諸表準則」と共に公表された「企業会計原則の制定について」において,「企業会計原則」の目的の一つとして以下のものが挙げられています。
企業会計原則は,将来において,商法,税法,物価統制令との企業会計に関係ある諸法令が制定改廃される場合において尊重されなければならないものである。」

 1950年5月に,「調査会」は,「経済安定本部設置法の一部を改正する法律」の公布によって法制化され,発展的に解消し,名称も「企業会計基準審議会」に改められました。同年には,この「企業会計基準審議会」によって「監査基準」及び「監査実施準則」が公表され,証券取引法の領域では,会計・監査の近代化,すなわち資産別評価規定の整備,計算書類様式標準化,外部監査人監査導入等が実現しました。
 商法の計算規定の近代化に当たっては「企業会計原則」が尊重されなければならないといっただけでは不十分という理解から,商法改正についての具体的勧告として1951年(昭和26年)に企業会計基準審議会によって「商法と企業会計原則との調整に関する意見書」(以下では「商法調整意見書」と略称)が公表されました。当時の商法改正委員会委員 矢澤惇は,「商法調整意見書」による勧告は,「要望していますとおりに取り入れられたかどうかは,多少問題がある」としながらも,原則的には商法の1962年(昭和37年)改正と1974年(昭和49年)改正とでほとんど全部取り入れられたといってよいと思うと述べています(新井ほか1978,23頁)。
 すなわち,「商法調整意見書」の勧告は,第1から第14までありますが,そのうちの「第12 資本準備金」は,昭和25年改正による法定準備金についての資本取引と損益取引分離に対する追加要請だとし,残りの13項目については,昭和37年改正と昭和49年改正によって以下のようにほぼ実現したとしています(新井ほか1978,23頁)。

①昭和37年改正商法
 会計・監査の近代化のうち,資産別評価規定の整備が実現しました。また,1963年(昭和38年)には「株式会社の貸借対照表及び損益計算書に関する規則」(法務省令)が制定されました。これによって,「昭和13年以来,25年ぶりに計算書類の方式を定めるという公約がようやく実現」しました(鈴木・竹内1977,367頁)。すなわち,商法による計算書類の様式が標準化されました。

②昭和49年改正商法
 49年改正は,「公正なる会計慣行の斟酌」規定の新設や財産目録の作成義務の廃止,そして会計・監査の近代化のうち,外部監査人監査導入が実現しました。すなわち,会計監査人監査の導入等,商法会計上の長年の課題が達成された改正でした。当改正は,会計・監査に関わる研究者・実務家の多くが「第1次商法改正」と呼ぶ重要な改正でした(西山2002,42頁脚注)。
 商法においても,資産評価規定の法定,計算書類の標準化,外部監査人による強制監査等の会計・監査規制のフルセットの近代化という13年改正の「積み残し」の問題が,37年及び49年改正(同年「商法特例法」制定を含む)で解消されました。
 しかし,その結果,「商法が会計原則のルールを取り入れたその瞬間に会計原則はセミの抜け殻」(新井ほか1978,24頁)のようになるという事態を招来しました(千葉2004,9頁参照)。
 現在、「企業会計原則」は、下掲の金融商品の評価をはじめ、重複する企業会計基準が優先的に適用されるとして、「骨抜き」にされたまま放置されています。
「本会計基準は、金融商品に関する会計処理を定めることを目的とする。なお、資産の評価基準については『企業会計原則』に定めがあるが、金融商品に関しては、本基準が優先して適用される。」[企業会計基準第10号、para.1]

文献
新井清光ほか1978「〈座談会〉企業会計制度の基盤」『企業会計』第30巻第12 号。
鈴木基史2009「会計基準と税務基準の接点・異動」『税経通信』第64巻第13号。
千葉準一2004「『企業会計原則』再考」『企業会計』第56巻第9号。
西山芳喜2002「商法会計の新展開」『ジュリスト』第1229号。