昭和会計史としての「企業会計原則」

日本の会計制度近代化の立役者『企業会計原則』をはじめ財務会計について考察します。

日本型会計制度の歴史(商法・会社法)①: 昭和25年商法改正

日本型会計制度の歴史(商法・会社法)第1回 昭和25年商法改正

 

 今回は,昭和25年商法改正を取り上げます。

 

 はじめに

 日本では、商法は1890年(明治23年)に制定されましたが、ごく一部の実施後、1899年(明治32年)に、いわゆる新商法が制定施行されました。当商法では、総則の規定により、商人に対し、財産目録と貸方借方の対照表(貸借対照表)を、その開業の時、又は会社の設立登記の時、及び1年1回一定の時期に作成し、特に設けた帳簿に記載することを要求しました。そして、そこでは時価による評価が強制されていました。

 1911年(明治44年)の改正において、財産目録の評価額は、財産目録調製時の価格を超えることができないことに改められました。これは、「時価以下主義」と呼ばれ、1974年(昭和49年)改正に至るまでの約70年間、商法計算規定の評価基準として存在しました。その後、1938年(昭和13年)の商法の全面改正によって、財産目録に営業用の固定財産を記載するにあたっては、その取得価額又は制作価額より相当の減損額を控除した価額を付することができるものとされました。

 昭和13年改正によって、株式会社については、営業用の固定財産に取得価額又は制作価額を超える価額を付することができず、また、取引所の相場のある有価証券は決算期前1ヶ月の平均価格を超える価額を付してはならない旨の評価基準が定められました。さらに、株式会社の創業費、社債発行割引差金および配当した建設利息の額を繰延資産として計上することが認められました。

 因みに、ドイツでは、株式法において会計・監査の近代化、すなわち資産別評価規定の整備、計算書類様式標準化、外部監査人監査導入等が1931年に実現していました。13年改正による商法計算規定は、単に会計理論の立場からみて欠陥があるだけでなく、会計実践ともかけ離れたものでした。1957年(昭和32年)以降、証券取引法による正規の財務諸表監査が実施されることによって、商法計算規定と会計実践との隔たりが一層強く認識されるに至り、法制審議会商法部会は、1958年(昭和33年)2月から、商法計算規定の根本改正の作業に着手しました。

 そして、1962年(昭和37年)と1974年(昭和49年)の商法改正によって、商法計算規定は、近代化を果たすことになりましたが、その直接的契機が、戦後占領期に確立された証券取引法による会計規制と商法計算規定との調整にあったという点は、日本の会計規制の近代化を考察する上で重要なポイントです。つまり証券取引法による会計規制が、商法計算規定の近代化の牽引役を果たしたのです。

 戦後昭和期の商法改正について、今回は昭和25年商法改正を取り上げます。なお、商法の条文については、片仮名を平仮名に換え、漢字の送り仮名を補足し、句読点を付す等により、読みやすく変換しています。

 

昭和25年商法改正

 1950年(昭和25年)に商法改正が行われた。25年改正は、アメリカ法の影響を強く受けています。すなわち、25年改正は、連合国総司令部(GHQ /SCAP)経済科学局(ESS)のアメリカの法律家と、法務府を中心とする日本の法律家との協力によって、改正案が起草されその要綱が公表されました。当要綱は法制審議会の諮問に付され、日本の実情を考慮した要綱修正案が答申されました。この要綱修正案に基づいて法務府によって改正原案が修正され、1950年2月24日に国会に提出されました。そして、1950年5月15日に「商法の一部を改正する法律」として公布され、翌1951年(昭和26年)7月1日より施行されました。しかし、資産別評価規定の整備、計算書類様式標準化、外部監査人監査の導入は、25年改正には、まだ反映されず、積み残しとなりました。 

 25年改正では、会計に関連して以下のような事項が改正・新設されました。

1 授権資本制度の新設(166条1項3号)

2 無額面株式制度の新設(166条1項7号)

法定準備金利益準備金及び資本準備金の2種に区別(288条)。

法定準備金の資本組入規定の新設(293条ノ3)

5 新株発行費用の資産計上許容(286条ノ2)

6 建設利息規定の一部改正(291条)

株式配当規定の新設(293条ノ2)

監査役監査の範囲を会計監査に限定(274条)

 

 25年改正は、主に株式会社に関するものであり、その根本的性格は商法の「アメリカ法化」にありました(松本ほか1950、39頁)。それについて、かつて幣原内閣の憲法問題調査委員会の委員長も務めた松本丞治は、25年改正をテーマとした座談会で次のように批判しています(松本ほか1950、39頁)。

「この要綱の大体の建前は、日本の実際ということとまったく目を離して、別個の見地で新しい制度にしようということで立案されているかのように実は考えられる。」

 

 他方、大住達雄(三菱倉庫社長)は、同座談会で次のように発言しています(松本ほか1950、40頁)。

「わが国は大陸よりも英米を相手に貿易する場合が多くまた今後益々多くなるのでありますから、商法に関する限りは大陸法を捨てて英米法を継受することが適当じゃないかと思うのであります。」

 

文献

松本丞治ほか1950「〈座談会〉改正商法の諸論点」『法律時報』第22巻第3号。