昭和会計史としての「企業会計原則」

日本の会計制度近代化の立役者『企業会計原則』をはじめ財務会計について考察します。

ドイツ会計制度③

 今回は、2009年会計法現代化法(BilMoG)と2015年会計指令転換法における計算規定を概観しましょう。

 

1 2009年会計法現代化法(BilMoG)

 BilMoGの政府草案の理由書によれば、2009年5月29日に発効したBilMoGによって「(国際財務報告基準(IFRSs)との関係において…)等価値であるが、より簡素かつコスト的に有利な代替物を企業に提供するという目的が追求された。その際、商法上の年度決算書は、依然として利益配当の基礎であり、商法上の年度決算書の、課税所得計算に対する基準性の利点は保持され、同様に、正規の簿記原則の体系といった、商法上の会計報告の支柱は依然として存在し続けている。」(BT-Drucks,16/10067, S.32)

 

 このように、商法決算書は、依然として配当の基礎であり、課税所得計算の基準です。BilMoGによる主な改正点は以下の通りです。

 ①規模以下の個人商人(Einzelkaufleute)に対する規制緩和

 ②商法決算書の情報提供機能の改善

 ③HGB開放条項(Öffnungsklausel)の削除

 ④税務上の選択権行使の前提設定

 

  上掲の①については、BilMoGによりHGB第241a条で個人商人に対してHGB上の記帳義務の免除が初めて導入されました。

 また、上掲の②にあるように「商法決算書の情報提供機能の改善」が目的の1つとされ、さらに③と④もHGB上の「適正な損益算定」の足枷の一部を外すことが目的でした。すなわち、ドイツの課税所得計算は,日本の「確定決算主義」に相当する「基準性の原則」(Maßgeblichkeitsgrundsatz)により商法決算書(Handelsbilanz)に結び付けられています。そして、所得税施行令(Einkommensteuer-Durchführungsverordnung:EStDV) 第60条第2項第1文により,納税義務者が別個の税務決算書を作成しない限り,課税所得計算の基礎は,規定された税務上の調整計算書(Überleistungsrechnung)を添付した商法決算書です。こうしたHGB準拠決算書と税務決算書とのつながり、特に「逆基準性」が、HGB上の「適正な損益算定」の足枷となっているという批判がありました。

 BilMoGも、関連するHGB等の法律の特定の条文を改正・新設する「条項法」であり、HGBの改正以外に所得税法(EStG)等の改正も含んでいます。日本の損金経理要件に類似した「逆基準性」は、EStG旧第5条第1項第2文が除かれたことにより廃止されました。その結果、補助金の税務上の選択権の行使は、商法決算書上の計上から独立して可能となりました。 

 しかし、商法決算書と税務決算書との結合は、IFRSsの展開において原則としてフェードアウトされますが、ドイツでは重要であるとされました。税務決算書との離反は、比較的大規模な企業にとっては不可避ですが、基準性の原則の存在意義として重要な論点は中小企業の負担問題にあります。中小企業にとっては,商法決算書と税務決算書とを別々に作成するコストは過重負担だからです。統一決算書(Einheitsbilanz)とは、商法決算書に上述の調整計算書を添付することにより、税務決算書を別個に作成しないことを指しますが、BilMoGにより「逆基準性」が廃止された一方で、基準性の原則が温存されたのは,中小企業に統一決算書の可能性を残すためだったという見解もありました(Fischer/Kalina-Kerschbaum 2010, S.399)。

 なお、BilMoGの政府草案では総ての商人に規定された、売買目的金融商品の公正価値による評価(HGB政府草案第253条第1項第3文)は、連邦議会の介入により転換されず、公正価値評価は金融機関の売買目的金融商品に限定されました(HGB第340e条第3項第1文)。このように公正価値評価の範囲について、IFRSsよりも限定されたものとなりました。

 

2 2015年会計指令転換法(Bilanzrichtlinie-Umsetzungsgesetz:BilRUG)

 2013年6月29日に会計指令2013/34/EU(以下ではEU会計指令と称します)がEUの官報で公表されました。EU会計指令はEC第4号指令(個別決算書)およびEC第7号指令(連結決算書)に代わり、2015年7月20日までに各EU加盟国で国内法化され、2015年12月31日後に始まる事業年度に初度適用されねばなりませんでした(EU会計指令第53条)。会計指令転換法(BilRUG)によって、EU会計指令の規準が、2015年7月に期限どおりにドイツ法に転換されました。

 そして、BilRUGによって個別決算書および連結決算書に以下のような重要な変更が生じました。

 ①引き受けられた債務に対する保証義務

 ②資本参加会社のマイクロ資本会社(Kleinstkapitalgesellschaft)からの排除

 ③連結会計報告の免除

 ④計上および評価原則

  (ア)営業収益の新定義

  (イ)臨時費用・収益の区分表示の廃止

  (ウ)自己創設された無形資産および有償取得の無形資産の耐用年数の見積に対する標

   準規則の廃止

  (エ)調達価格縮減の帰属可能性の明確化 

 ⑤同一期間に受領された資本参加収益に対する配当禁止

 ⑥注記・附属明細書記載の拡大

 ⑦連結決算書

  (ア)資本連結

  (イ)貸方差額の取扱

  (ウ)持分法

 ⑧監査および公開

  (ア)決算書監査における明確化

  (イ)監査済み決算書の公開義務

 

 但し、ドイツではBilRUGによって、EU会計指令が額面どおり転換されたわけではありません。また、EU会計指令には、IFRSs由来のアプローチがある一方、IFRSsとは異なる点もあります。さらに、BilRUGは、EU会計指令のドイツ国内法への転換ですが、IFRSsよる財務諸表には存在しない「異常な」損益が、注記・附属明細書において記載されるようになりました。

 

文献

Fischer, Carola/ Claudia Kalina-Kerschbaum,2010 “ Maßgeblichhkeit der Handelsbilanz für

 die steuerliche Gewinnermitttlung ,“ Deutsches Steuerrecht(DStR) 8/2010, S.399-401.

Richtlinie 2013/34/EU des Europäischen Parlaments und des Rates vom 26. Juni 2013

 über den  Jahresabschluss, den konsolidierten Abschluss und damit verbundene  

 Berichte von Unternehmen bestimmter Rechtsformen und zur Änderung der Richtlinie

 2006/43/EG des Europäischen Parlaments und des Rates und zur Aufhebung der

 Richtlinie 78/660/EWG und 83/349/EWG des Rates.