昭和会計史としての「企業会計原則」

日本の会計制度近代化の立役者『企業会計原則』をはじめ財務会計について考察します。

簿記のメカニズムから見た貸借対照表と損益計算書(その1)

 簿記は、仕分けから始まる簿記一巡の手続きを経て貸借対照表損益計算書の作成に至るメカニズムです。簿記の学習では、仕訳のルールをはじめ、とにかくルールを覚えて解答を得ることが第一となります。その結果、簿記手続の意味は余り意識されないと思います。今回は、簿記を学習した人には、分かり切ったことも多いと思いますが、簿記の手続の流れの意味を見ていきましょう。簿記のメカニズムから見た貸借対照表損益計算書の意味と、それが示す情報内容を理解することが目的です。なお、以下の説明は、日商簿記検定3級レベル以上の知識をお持ちの方を前提にしています。
 簿記では、記録の対象としての「取引」をまず仕訳帳に「仕訳」(しわけ)します。「仕訳」とは、企業の取引を資産、負債、資本、収益、費用のうちのいずれかの増減として記録することを意味します。その際、それぞれのカテゴリーに属する「勘定」の左右いずれかに、「ルール」に基づいて記録します。「ルール」といっても、増えたときに左右いずれに記入するかという単純なものです。反対側には減ったときに記入します。

 資産については,勘定に数字を記入する際,その増加(+)は左側に,減少(-)は右側に記入するのがル-ルです。そして、残高は、借方に出ます。費用についても、その発生(+)を左側に記入します。減額修正するときは右側に記入します。
 負債と資本については,その増加(+)は右側に,減少(-)は左側に記入するのがル-ルです。そして、残高は、貸方に出ます。収益については、その実現(+)を右側に記入します。減額修正するときは左側に記入します。
 勘定科目の中には,貸付金,借入金といった「…金」というものがいくつかあります。「…金」という勘定科目は現金勘定を除いて現金そのものを指すものではないので注意しなければなりません。  
 例えば,日常の感覚では「借入金」というと、借り入れた現金そのものを指すように思えますが,勘定科目の「借入金」とは,「借り入れた金額」を意味します。したがって,現金勘定以外の「…金」という勘定科目の場合,「金」=「金額」と置き換えて理解しましょう。

それでは、簡単な取引例について仕訳してみましょう。
 銀行から現金170,000円を借入れた。
(借方)現  金  170,000円 (貸方)借 入 金 170,000円

 企業には現金が入ってくるので,「現金」が増加します。「現金」は資産に属するので,その増加は、上に示したル-ルに従って左側,つまり借方に記入することになります。
一方,その現金は銀行から借入れられたもの(借入金)なので,ル-ルに従って負債の増加を記録する右側,つまり貸方に記入することになります。

 次に、前受家賃60,000円を現金で受取ったとしましょう。この収入は、収益によるものです。
(借方) 現  金  60,000円 (貸方)前受家賃  60,000円 

 この場合も、借方は「現金」です。一方、その現金は、元手の追加以外による元手を増やす金額(収益)なので、ルールに従って貸方に「前受家賃 60,000円」と記入します。仕訳によって同じ「現金」の増加であっても、貸方の記入によって、借入によるものか、収益によるものかが記録されます。
 このように、簿記の仕組みに従って記録することによって、現金の増減の記録と共に、その増減の原因が記録されることになります。


 元帳記録から合計残高試算表を作成しましょう。各勘定科目の借方,貸方の合計欄には,それぞれの勘定の合計をそのまま記入します。例えば,現金については,借方の合計が420,000円,貸方の合計が320,300円となります。
  残高欄については,例えば現金の場合,借方の合計420,000円が貸方の合計320,300円を上回る99,700円が借方残高となります。合計欄と残高欄を備えた一覧表が合計残高試算表です。

 なお,合計試算表の借方,貸方それぞれの合計欄のタテの合計(740,300円)は,仕訳帳の合計欄と一致します。これは当然のことです。なぜなら,仕訳で最初に記録した数字を,転記によって各勘定にバラして記入し,それを再び試算表で集計しているからです。仮にそれが一致しない場合,一連の簿記の手続のどこかでミスがあったことを意味します。これが簿記の「自動検証機能」です。合計残高試算表の残高欄だけを一表にまとめたものが残高試算表です。


 残高試算表を資産・負債・資本と費用・収益とに切り離すと,前者が貸借対照表,後者が損益計算書となります。