昭和会計史としての「企業会計原則」

日本の会計制度近代化の立役者『企業会計原則』をはじめ財務会計について考察します。

戦時下の会計学者南方視察団(その1)

 1942年7月下旬から10月の約3か月間、当時、日本の占領下にあった南方に日本と同様の統一原価計算制度を確立するために、現地において原価計算に関する指導と業種別の原価計算準則の作成が陸軍省より4人の会計学者に委嘱された。委嘱されたのは、長谷川安兵衛(早稲田大学商学部)、黒澤清(横浜経済専門学校:現在の横浜国立大学経営学部)、山辺六郎(長崎高等商業学校:現在の長崎大学経済学部)、岩田巌(東京商科大学:現在の一橋大学商学部)である。
その内容は、当時、雑誌『會計』(現在も存続)掲載の黒澤清による「南方遊記」(黒澤1942/1943)、雑誌『原価計算』(戦後、雑誌『産業経理』となる)掲載の長谷川安兵衛による「南方視察日記」(長谷川1943)、そして雑誌『原価計算』掲載の「南方に於ける原価計算事情座談会」(黒澤ほか1943)によって知ることができる。なお、長谷川安兵衛は、帰途、10月29日に台湾で飛行機事故のため亡くなった。日記は、遺品として残されたものである。以下では、視察のスケジュールだけを紹介し、詳細は、改めて記すことにしたい。

1943年7月25日 羽田空港発後、広東(中国)、台北(台湾)、海南島(中国)、サイゴンベトナム)を経由
    7月31日 全員昭南島(現在のシンガポール)到着(一部のメンバーは先着)
    8月3日  クアラルンプール(マレーシア、以下同様)
    8月7日  イポー
    8月9日  ピナン(現在のペナン島
    8月16日  クアラルンプール
    8月17日  マラッカ
    8月18日  昭南島シンガポール
    8月24日  スマトラ島メダン(インドネシア、以下同様)
    8月25日  パンカランブランダン油田、バンカランスス油田
    8月26日  タバコ工場視察
    8月27日  キサラン・ゴム園、パーム油工場、グッドイヤーのゴム工場
    8月28日  ブラスダキ
    8月30日  スマトラ島メダン
    8月31日  昭南島シンガポール
    9月2日~8日 南方原価計算準則の作成
    9月9日   ジャワ島バタビアインドネシア
9月10日  トーマス・バーター製靴工場視察
9月11日  ココナツ油製油工場、石鹸工場視察
9月12日  バンドン
9月13日  ゴム工場視察
9月14日  キニーネ(伝染病マラリアの特効薬)工場視察
9月15日  製紙工場視察
9月17日  スラバヤ
18日~20日 ビール(ハイネケン)工場、皮革工場視察
9月20日  セレクタ マラン付近の製糖工場、軍直営農場、タバコ工場等視察
9月27日  スラバヤ ジャワ糖業連合会でジャワ糖業の事情聴取
9月29日  バタビア
10月1日  昭南島シンガポール
10月7日~9日  原価計算講習会開催-視察報告(黒澤担当)、南方製造工業原価計算要綱の説明(岩田担当)、南方農産加工業原価計算準則、南方鉱業原価計算要綱(黒澤担当)、キニーネ類製造業原価計算準則(山辺担当)
10月14日  広東(中国)
10月15日  台北(台湾)
10月17日  マニラ(フィリピン)
19日、20日 ロープ工場、ココナツ油製油工場
21日    フィリピン経済統制について現状聴取、電力会社
22日    鉱山業の開発事情聴取
23日    綿作状況
24日    生活必需品配給統制事情聴取
26日    コプラ(椰子油の原料)収買事情聴取
27日    南方産業視察談-マレー半島の視察報告(黒澤担当)、スマトラ視察報告(山辺担当)、ジャワ島視察報告(岩田担当)
29日    内地帰還

参考文献
黒澤清1942/1943「南方遊記」『會計』第51巻第6号、第52巻第2号。
黒澤ほか1943「南方に於ける原価計算事情座談会」『原価計算』第3巻第1号。
長谷川安兵衛1943「南方視察日記」(その1)、(その2)『原価計算』第3巻第3号、第4号。