昭和会計史としての「企業会計原則」

日本の会計制度近代化の立役者『企業会計原則』をはじめ財務会計について考察します。

日本型会計制度の歴史(監査)②: 会計制度監査Ⅱ

日本型会計制度の歴史(監査)第2回 会計制度監査Ⅱ

 

 今回は,会計制度監査の2回目です。

 

1.会計監査基準懇談会

 初度監査が1951年(昭和26年)7月1日以降に始まる事業年度に実施されることとなった段階で、岩田巖をはじめとする学者、経団連公認会計士、関係官庁の協議の結果、経団連の中に「懇談会」が設置されました。1951年当時の「懇談会」の構成メンバーは以下の通りでした。

経済団体連合会

 大住達雄(三菱倉庫)、金子佐一郎(十條製紙)、高橋尚之(日立製作所)、渡部泰助(三菱

 電機)、内田繁夫(日本油脂)、吉住敏明(日本鉱業)、大岡富士郎(太平鉱業)、堀越禎三 

 (経団連)、内藤円治(日東紡)、中村三男吉(日本鋼管)、山口貞一(八幡製鉄)、長谷川弘

 之助(富士紡)、田島〓 (東武鉄道)、宮本宏(新光レーヨン)、神馬新七郎(川崎重工)、森田喜

 長(日本化学工業会)

公認会計士協会

 太田哲三、辻 真、角田重太郎、佐藤善助、津屋幸右衛門、下地玄信、片山庄二、松

 村俊夫

企業会計基準審議会

 中西寅雄、岩田巖、黒澤清

公認会計士管理委員会

 嶋田宏、中瀬勝太郎

 

2.初度監査(1951年)

 公認会計士による監査が実施されたのは、「監査証明規則」に定められた1951年(昭和26年)7月1日以降に始まる事業年度からであり、しかも、直ちには正規の監査が行われず、以下のような制限のもとに施行されました。

  (1)監査報酬は被監査会社の規模の大小にかかわらず一律とする。

  (2)監査日数(1事業年度22日以内)、監査人員(責任者とも2人)の限定。

  (3)監査範囲の限定。

 

 1951年7月1日に、「懇談会」によって「会計制度監査準則」(会計監査基準懇談会1951a)が公表され、証券取引委員会はそれをほとんどそのまま採択して同月25日に同委員会事務局長通牒「監査証明の実施について」(「財務書類の監査証明に関する規則取扱」)として法制化されました。

 更に、証券取引委員会企業会計審査監であった渡邊実による「初年度監査実施要領について-監査証明実施に関する通ちょうの説明-」という解説が雑誌『産業経理』に掲載された。その中で、渡邊実は次のようにいっています。

 「法(証券取引法:引用者注)第193条の2及び規則(財務書類の監査証明に関する規則:

 引用者注)の規定は、初年度から正規の監査が実施されることを予想して制定されたも

 のであって、この度行われる初度監査としての会計制度監査は全く考えられていなか

 った。従って、これらの規定の取扱を決める必要に迫られ、この目的を達するため、

 通ちょうが発せられたのであり、証券取引委員会は初度監査に限って、会計制度監査

 を有効と認めるのである。」(渡邊1951、33頁)

 

 同年8月までに「懇談会」により、「内部統制の質問書」(会計監査基準懇談会1951b)、「初年度会計制度監査契約書」、「同約款」および「初年度監査報酬規定」が公表されました。これらによって法定監査を実施する体制が整備され、初度監査が実施されました。

初度監査について「懇談会」メンバーの岩田巌は、初度監査としては、次の3点でよいとの考えであったといいます(新井1999、177頁)。

 ①会計処理が会計原則により行われているかどうかをテストする。

 ②内部統制組織が正確に運営されているかどうかをテストする。

 ③決算時には科目ごとの勘定分析を行う。

 

 岩田巌は、会計制度監査の手続は簡易化されているけれども、これを以て甚だしく粗末なものだと非難することは当たらないとし、「米国におけるSystem Examination、System Reviewや独逸のOrganizationsprüfungというのは大体においてこの会計制度監査に相当する」と述べています(岩田1954、177頁)。

 しかし、被監査会社においては、会計制度監査をすることすら難しい状況にありました。すわなち、内部統制組織どころか、社内の経理規程さえ十分整備されていませんでした。「懇談会」委員の太田は、後に次のように語っています。

「法定監査は26年から始まったが、当初は会計制度の経理規程の作成を指導するのに忙

 殺されたのである。」(太田1968、231頁)

 

3.次年度監査(1952年)

 岩田巌は、初度監査について次のように解説しています(岩田1951、4頁)。すなわち、正式の初度監査を監査計画設定のための予備的な監査と、これに基づく財務諸表監査との二段に区別し、初年度には、予備的な監査を行い、次年度に財務諸表監査を行うのであるから、2事業年度を通じて正式の初度監査を実施することになる。そして、我が国においては、少数の例外を除き、殆どすべての会社が半期決算を行うから、結局1年を通じて正式の初度監査が行われることになると。

 このように、次年度監査は財務諸表監査とする計画が語られていましたが、「次年度監査の構想」と題するその後の論考で岩田は、初度監査の基礎調査では制度の整備確立の状態を書かれた規程や内部統制の質問書によって調査しその当否を検討した。これに対して、次年度監査は既に書面を以て調査された制度が単に紙の上に書きしるされているばかりでなく、実際上においても施行実施されているかどうかを会社の現場について確かめると説明しています(岩田1952、6頁)。

 1952年(昭和27年)1月1日以後に始まる事業年度から、次年度監査が実施されました(半年決算会社の場合)。この監査にあたっては、「次年度監査準則」(会計監査基準懇談会1952)とこれを法制化した「次年度監査の実施について」(証券取引委員会)及び「財務諸表の検討について」(証券取引委員会)が公表されました。監査手続にあたっては、初度監査から拡張され、現金、預金、有価証券、手形債権及び棚卸資産については、実施可能な場合には実査、確認、立会等の監査手続をあわせ行うものとされました。しかし、実際上、実施はされませんでした。また、新たに監査すべき事項として「証券取引委員会に提出する財務諸表の形式が、法令等の定めるところに準拠しているかどうか」という項目が加えられました。

 

文献

新井益太郎1999『会計士監査制度史序説』中央経済社

岩田巖1951「初度監査について」『産業経理』第11巻第7号。

---1952「次年度監査の構想」『産業経理』第12巻第4号。

---1954『会計士監査』森山書店

太田哲三1968『近代会計側面誌-会計学の六十年-』中央経済社

会計監査基準懇談会1951a「会計制度監査準則」(新井1999所収)。

―――――1951b「内部統制の質問書」(新井1999所収)。

―――――1952「次年度監査準則」(新井1999所収)。

渡邊実1951「初年度監査実施要領について-監査証明実施に関する通ちょうの説明-」

 『産業経理』第11巻第9号。